インリバのブログ

internaReberty PROJECT(虐待当事者3人の発信や対話を目的としたグループ、インタナリバティプロジェクト)のブログです。特定の企業や宗教団体とのつながりは一切ありません。

インリバ通信2号 長谷川美祈さん×インリバ対談全文(その3)

-------今後の展望をお聞かせ下さい。写真集の第2段などあったりしますか?

長谷川:いま、2つ同時進行してます。ひとつは去年から取り組んでいるもので、養護施設を訪問した時に職員さんに、虐待もだけど養子縁組も取り上げてほしいと言われて。最初はピンと来てなかったんだけど…。
職員さんが『施設で育つということはそれで良かった人ももちろんいるんだけど、家庭を知らないで育つという側面もあってこれでいいのだろうかと思うことがある』と仰ってて。
例えば施設の子が、週末普通のおうちに泊まらせてもらうことがある。その子が施設に帰って来たときに『おじさんがパジャマを着てハミガキをしていて髪がボサボサだった』って報告してきたと。
サクラ:特別なことのように写るってこと?
長谷川:そう。職員さんってちゃんとした服を着て、朝来て夜帰っていくから、それがその子にとって普通だった。大人がボサボサ頭でパジャマを着る姿を見て驚いたんですよね。あと、夜に買い物行くことになって施設の子たちも車に乗ったら車の中真っ暗っていうのを知らなくて大パニックになった。門限とかあって夜出かけることがないから。そんなことも今まで経験しないできた子達が18歳でイキナリ世間にぽんと出されて・・・
サクラ:やっていけるわけがない…
長谷川:だから、家庭で育つことができる養子縁組を推進したいんだって言ってました。それを調べたいなと思って取材を始め特別養子縁組をしたご家族のインタビューを6家族くらいして。
そうすると多いのは不妊治療したご夫婦。諦めた末に赤ちゃんからの縁組みを知り調べる…。病気で産めない人もいるけど、不妊治療がついてくるパターンが多い。
次に不妊治療について調べたら体外受精もあれば人工授精や代理母だとか色々種類がある。次々と調べる事が増えていく。
疑問が沸いてきて。生むこと生まれること、 科学的にも選択肢は増えているけれど命に対する議論がされてない。子供の権利を日本全体で考えが及んでいない。
命の倫理を日本社会はどう考えていこうとしてるのか。育った子供たちは知る権利もないという事が起こっているから、そこを掘り下げていこうと。
ヤマダ:虐待もそうだけど取材を進めるのが難しそうですね。
長谷川:養子縁組はまだ真実告知があるから取材もできるけど、人口受精で精子の提供者が非配偶者の場合は子供にそのことを言ってない。その子供は大人になって気づき、早くに知りたかったと言っていたり。その辺りもあまり議論もされていないので表に出していきたい。
もうひとつは性暴力・DV・虐待などのトラウマを抱える方の自助グループ Thriveの方たちに協力して頂いて取材をしてます。性被害の場合、当事者が発信した時に社会的なバッシングが強かったりセカンドレイプが多いから、そこもクローズアップできたらと。
『internal notebook』の方はもっと広めるための活動、写真展などの活動をしていこうと思っています。写真集が出たあとに何人かメッセージをもらっていて。第二段を出すのか展示だけをやるのかわからないけど、話したい人がいるなら聞いて。写真集出たから終わりじゃなくて、発信は続けていかないと。
橋本:長谷川さんって海外の社会福祉の仕組みとか知ってると思うんですけど、日本でいま、虐待問題に対して足らない部分とかこういうのが必要なんじゃないかってのがあれば教えて欲しいです。
長谷川:そんなに詳しい訳ではないですが、専門家が少ない。児童心理をちゃんと学んでる人も少なければ虐待というものに対してどう動くのが適切かという見通しをつけられる人が少ないように思います。
サクラ:だから一回親から子を引き離したけどすぐ返したり。
長谷川:ちゃんと研究していろんなケースをみてる人だと返さないだろうに、返しちゃうのは経験不足もあれば判断できる人が少ないからかな。後、情報の共有がうまくいっていないようにも思えます。
橋本:海外と日本で決定的に違うと思ったことは?
長谷川:子供に対する人権的な考えが違うかな。日本は子供は親のもの。子供を一人の人として尊重していないんですよね。今少しずつ変わってきていますが。
ヤマダ:それは自分が子供を育ててて思うんですよ。すごく難しい。しつけって親の思い通りにさせたいってのが出てきちゃう。
長谷川:うん出る。私も出るし。
ヤマダ:行きすぎると虐待になっちゃうし。だからといってなにもかも自由にさせていいのか、人としてけじめのない人になっちゃうっていう気持ちもある。それは日本がそういう考えだから私たちもそういう考えになっちゃってるんですか?
長谷川:そうかもしれないですね。海外は子供を子供として見てなくて一人の人としてみている感じがします。
例えば日本だと『子供は知らなくていいよ』とかあるじゃない。その辺が子供とはいえ、選択する権利、考える権利がある。
ヤマダ:性教育も、日本だとまだいいみたいなのがありますよね。
長谷川:逆にそれを教えると性の方に走っちゃうみたいな考えだよね。
ヤマダ:そのスタンスが人権を守ってる事になるのなら私は大丈夫だって安心しました。嘘つきたくないから、こないだも聞かれたから答えたし。
橋本:虐待してしまう親に対するケアは海外は進んでるって聞いたんですけど。
長谷川:虐待してしまった親にもケアのプログラムがきちんとあるんですよね。通告があったら児童相談所みたいな所と、警察と弁護士がちゃんと付く。親と子を引き離す場合、裁判所が関与するそうです。親にも、子にも双方に弁護士がつくそうです。
橋本:裁判所が公平に判定するんですね。
長谷川:日本でも2016年の法改正で児童相談所に弁護士の配置が義務づけされました。
ヤマダ:児童相談所には児童心理司がいるのに何で今まで弁護士がいなかったのか逆に不思議ですよね。(※弁護士と連携を以前からしていた一部の児童相談所もある。)もっと増えてほしい。
長谷川:ベルギーの友人に聞きましたが、日本でいう週末里親みたいな、夏休みだけ遊びに来る子供がいるのも、肌の色が違う家族がいるのも当たり前。日本だと血縁を重視するところが独特。親は大切にしなきゃいけないとか。
サクラ:仕事で接した高齢者の方が『私たちの時代は親に逆らうなんてできなかった。口答えなんかしたこともなかったわよ。でもね、私その時代に生まれあの親のもとに生まれ育ててもらって有りがたかった』って言ってて。こういう思考の人がいるから私たちのやってることも否定されるのかなって思いました。
橋本:昔は親が絶対っていう風潮があって、どっかでおかしくなって虐待っていう風に歪んでいったんじゃないかな。
サクラ:そういう人からみたら私のされた事を見ても『あなたのためを思ってしたよ』って言いそう。
橋本:それは戦争中生きてた人と戦後生きてきた人とが分かり合えるわけがないのと同じで。口論するべきじゃないよね。
ヤマダ:幼少期から『親には感謝しなさい』と教育されてきた子供達に『親は自分が生みたくて生んでるんだし親が子供を育てるのは義務だから親に感謝なんかしなくていいから』って、とある中高一貫校の先生が授業で言ってるらしいんです。それってスゴく大事だと思ってて。1/2成人式とか嫌なのね。
長谷川:やだやだ。強要することじゃない。
ヤマダ:そういうのって本当にもっともっと大人になって…なんなら40代で親に感謝してるかっていったら…してる部分もあればそうじゃない部分も大きいよっていう回答しかでない。
橋本:じゃあ何に感謝するのかを言っていかないとね、言うなら言うで。ただ親には感謝しろって言うだけじゃね。
ヤマダ:親ってだけでえらいわけじゃないし子供は親を選べませんからね。

-------貴重な話ありがとうございました。
(2018年8月某日 都内にて)