インリバのブログ

internaReberty PROJECT(虐待当事者3人の発信や対話を目的としたグループ、インタナリバティプロジェクト)のブログです。特定の企業や宗教団体とのつながりは一切ありません。

インリバ通信2号 長谷川美祈さん×インリバ対談全文(その1)

イベントでお配りしたインリバ通信2号に載せた写真家の長谷川美祈さんとの対談は抜粋でしたので、こちらに全文掲載します。


----------最初の質問ですが、虐待の写真集『internal notebook』を作ったきっかけを教えて下さい。
長谷川:まず、自分が虐待しちゃうんじゃないかなというのがあって、だから虐待っていうものを知りたいって思いました。虐待してしまうお母さん達がただの悪い人で母性がないってセンセーショナルに報道されて終わっていくのが解せなくて。ただの変な人じゃないし誰でもあり得るだろうと思ったので。
それで、虐待を受けた人達がその後どうなるかの議論もないし『何とかならないかな』と思ったのがきっかけです。
橋本:実際作ってみてどうでした?自分自身の感想は?
長谷川:最初は、自分が虐待しちゃうかも?っていう私自身の心情も入れた写真集にしていて。だけど写真集に出てくれた当事者の方々と話した時に、実際に虐待を受けた方々の話の方が大事だし、そこに『やってしまうかも?』という自分の感情を入れてもしょうがない、どうでもいいわって思ってバッサリやめて方向転換しました。
当事者の声って社会に広まってないし、それを聞こうとする人もあんまりいないから、そっちの方が大事だなって。自分の中での虐待問題への接し方や考え方も変わったと思います。
虐待をやらないで済んだ人と、やってしまった人との差は結構大きくて、何が違ったのかを追求できるものにしたいと思いました。
虐待を受けてしまった人が大人になっても苦しんでることはほとんど知られていないので、そこを全て載せられるようにしたかったのもあります。
---------周りの反響はどうでしたか。
長谷川:写真集ができた時に一番怖かったのが、写真集に参加してくれた人がバッシングされることでした。『そんなわけない』とか、『うそじゃないか』という人もいるだろうし、『そんなの虐待じゃない』という人も現れてくるかもしれない。
参加してくれている人に危害が出るということは避けたかったから、それがないように作ろうって思っていましたけど、本当にあったことを変えたり、話してもらったお話の言い回しも変えたくなかったです。意訳すると嘘っぽさが出るからなるべくそのままにして...。
橋本:バッシング的なことはなかったですか。
長谷川:悪く言う人がいなかったのが意外でもあり嬉しくもあり...。絶対でてくるだろうなと思っていましたけど。いい言葉も悪い言葉も両方載せて。カナンさんは『お母さんがこれをしてくれたのは嬉しかった』とも言っていたからそれも載せて...。
橋本:万が一バッシングがあったとしても、それが縮図なのかもしれないですね。世間と自分達のギャップ、壁。あったらあったで、それは受け止めなきゃいけなかったのかもしれないけど。
サクラ:写真集は英語の文章も載せ、ドイツとかフランスとか色んな国の方が見てくれましたが、長谷川さんの印象的には世界各国と日本とで反応の違いみたいなものはありましたか?
長谷川:海外の方が社会的な問題と写真との結びつきが元々あるから理解は早かったです。写真集をじっくり3時間見たってメールが来たり、ちゃんと反応を返してくれる人が多くて。日本だと最後まで見られなくなる人が多かったですね。
ヤマダ:それは虐待とか全然関係ない人が見られなくなっちゃうってことですか?辛くなって。
長谷川:そうですね。『当事者の方は見なくていいですよ』って声かけたりとかもしてたけど、当事者の方は『大丈夫です』ってしっかり見てくれる人が多かったです。あまり虐待について考えないで来た方は『パラパラパラー』と軽くめくってしまう。
サクラ:ピンと来ないですよね。多分。
長谷川さんの写真集って、見る人がみたら色々考えさせられるけど、そういうところにアンテナがない方は『何かの風景だな』ってパパってめくって終わるような作りになってるじゃないですか。だから、見ることが進められないっていうのは...ある程度何かは感じ取ってくれてるのかも。
長谷川:何となく目を塞ぐというか、深く入ろうとしないのが日本の特徴的なところは見て取れるかなと。
橋本:関心ないんですかねー?怖いとか。
サクラ:どう関わっていいか分からないのか、逆に自分の発言によって相手を更に傷つけるんじゃないかとか思っている人もいるかもしれない。
長谷川:今回の写真集ですごく勉強になったことがあって。だいたい写真集って写真関係でイベントやって、写真集売って、展示して、写真関係の人が見に来て終わるっていう流れが多いです。でも今回はちょうど虐待防止月間に展示したというのもあり、杉山春さん(ルポライター)と一緒に呼んでもらえました。
講演会に来てくれた人は写真関係じゃないし、支援者や虐待に何かしら関わっている人達。写真集には興味を持たないんじゃないかな?写真の話よりも杉山春さんのお話が聞きたいのだろうと思っていたのですが、講演が終わった後に『写真集を買いたい』という人が5~6人来てくれて...。1冊13,000円なのね。手作りだから高いし、簡単に買えるものじゃない。
橋本:覚悟を決めないと買えないものですよね。
長谷川:それなのに、5~6人いたのがすごく嬉しかったです。と同時に写真関係の中でだけやっていては駄目だったんだなと気付きました。
きちんと説明すれば興味を持つ人が世の中にいっぱいいるとその時に感じて。
今までのやり方がいけなかったと反省しました。きちんと世の中に発信すれば反応する人はいるんだと実感できました。

---------この写真集がきっかけでインリバ3人は出会って、グループを結成しました。3人の第一印象を教えてください。

長谷川:まず隆生さんが一番最初。
写真展を開催したギャラリー、Reminders Photography Strongholdのキュレーターさんが色々と相談に乗ってくれていたのですが、『当事者の方と会って話すことになった』と報告したら『一応気をつけて』って。
橋本:それはそうですよね。男だし。しかも、会う段取りが気持ち悪いくらいすんなりと進みましたからね。
ヤマダ:ブログを見てたんですよね。何となく人柄が分かった上でっていう?
長谷川:うん。それもあって私の中では不安は全くなくて。会った時もぱっと見穏やかだしお話も緊張感なく...。カフェみたいなところでしたし。
隆生さんだけ、私、録音とってないんですよね。私も初めてだったからいきなり録音するのも悪いなあと思って。あとでブログとメモを見ながら書き起こしましたね。その2ヶ月後に一緒に栃木に行ったり。
橋本:宇都宮で待ち合わせして、車借りて...。会って間もない人ですよ。今思うとすごいですよね。
ヤマダ:りゅーさんもなかったの?長谷川さんに対して警戒心みたいなの。
橋本:ないないない。虐待問題を発信する手段としてブログを書いてたけど、それ以外の方法が分からなかったので、写真って依頼が来たときにおもしろいなって思った。だからポジティブに、これは自分には出ない発想だからすぐ乗りました。
長谷川:隆生さんで始まって上手くいったことが次に続いていった。第一歩です、本当に。

-------次はヤマダの第一印象をお願いします

長谷川:カナンさんの方から連絡をくれたすごく珍しい出会いでした。
ヤマダ:私がちょうど『母になるのがおそろしい』を出してすぐだったから、虐待に関する何かをやりたいって思ったときにネットで見かけてメールしたんですよ。そしたらすぐ返事が来て。
橋本:願ったり叶ったりですよね。 長谷川さん、困ってたからね。協力者がいないって。だから『誰かいたら紹介しますね』って感じだったんですよね。
長谷川:そう(笑) だから、カナンさんも結構トントン拍子でしたよね。漫画を先に読んでから会って。 漫画家さんっていうのも会ったことなかったし(笑)
ヤマダ:いきなり虐待の話をしたんじゃなく、待ち合わせて少しお茶してから一緒に『月光』観ましたよね。(性虐待テーマの映画で2017年公開。小澤雅人監督作品。)
長谷川:うん。後日お家に行って...。2時間くらい話した。で、結構きわどいことをズケズケ言ってた(笑)そもそも虐待を受けてきたお話を聞いてるんだけど、自分が手をあげちゃうとか、旦那さんとやり合うとかも自然にお話してきてくれたから...。
ヤマダ:虐待を受けた人が経験を語るっていうよりは、虐待をしてしまう人に話を聞きたいみたいなのが確かホームページに書いてあったんですよ。だからそっちの話もするかみたいな感じだったはず。本が出来上がってみれば、意外に自分が叩いちゃったって人があんまりいないっていう。ほとんどみんなお子さんがいない方だから。
長谷川:子供を作りたくないって言う方が多かったですね。だから、カナンさんがいてくれたのは本の構成としても良かった。
その後も付き合いが続くんだろうなって感じました。今回出てくれた方みんな、取材して終わりじゃなくてその後もつながって...。

-------次はサクラの第一印象をお願いします

長谷川:サクラさんは、ちょっと会うのが心配でしたね。本人も心配だったと思うんですけど(笑) ちょうど東京に来るので会うことになって。ドタキャンされる覚悟はありました。今ね、こんな感じですけど会った時かなり細かった。顔が全然違います。
サクラ:最初はブログにコメントを寄せてくれて、それに返事して、メールでのやり取りを始めましたよね。その頃は摂食障害もあって、歩くのもまっすぐ歩けなくてフラフラしてました。40キロなかったと思う。
長谷川:インタビューの時は出なかったけど、多重人格も抱えてる状態でしたよね。
人格が3人いて、誰が話すことになるのか当日になるまで分からないと臨みました。
サクラ:私はそれまでは某テレビ局がやってる虐待の掲示板に投稿してました。『こんなことされててつらい』とか言いっ放しで終わり?みたいなのが私には物足りなくて。もちろんそういう場も必要だとは思うんですけど...。もっと発信して新たなつながりが欲しいと思ってブログを始めて...。
『取材をさせて欲しい』っていう依頼を長谷川さんからもらえて、『ああ、(ブログを)やってて良かった』やっと話しても大丈夫って。私、人に対するストライクゾーンが狭いけど、長谷川さんには自分の思ってることを喋っても多分大丈夫だなって。
ヤマダ:会う前に思って?
サクラ:最初の『取材をさせて下さい』っていうメールから人柄が伝わってきた。『この人、マジな人やな』、興味本位で聞いてるだけじゃなくて真剣に考えてくれてる人やなっていうのはすごく感じました。
橋本:ホームページあったじゃないですか。
あれもまた良かったですよね。真剣にやってる人なんだなって思った。
ヤマダ:私もあんまり警戒心なく会ったのは、やっぱりホームページ見てたっていうのもあって。大学の講義で質問されて気付いた、3人の共通点が『人を信じられない』なんだけど、そんな3人が長谷川さんをいきなり信じた...
橋本:とりあえず来るもの拒まずで、その後『ん?』ってなるタイプもいて。受け入れるだけ受け入れて『あいつちょっとあやしい』ってなったら距離を置くタイプかな、オレ。最初から警戒する人もいるし。
長谷川:写真集に出てくれている方は警戒はなかったかな。
隆生さんのあと、3か月位停滞してその間に虐待の電話相談の活動をした後に、もう一度探してみようと思って動き出したら、サクラさんと出会ってその後にカナンさんから連絡が来てって感じでそこからとんとん拍子で続いていきました。

--------------構想からはどれ位かかりましたか?

長谷川:3年です。(苦笑)当事者の方が見つからず、虐待事件の現場の写真を撮って2年近く経ってしまって、これ無理なんだろうなぁと思っていた。でもインタビューが始まったらあっという間でした。
タイミングもあるし、やっぱり自分の中で虐待の勉強や取り組み方とか話を聞くってどういうことか?などの勉強を積んだ時にうまくアプローチができるようになったのか・・・機が熟したみたいなね(笑)