インリバのブログ

internaReberty PROJECT(虐待当事者3人の発信や対話を目的としたグループ、インタナリバティプロジェクト)のブログです。特定の企業や宗教団体とのつながりは一切ありません。

インリバ通信2号 長谷川美祈さん×インリバ対談全文(その2)

--------写真集に出た3人が当事者グループとして活動することになったと聞いてどう思いましたか?

長谷川:嬉しかった。すっごい嬉しい。
ヤマダ:私ね、怖かったんですよ。虐待当事者の人と会うことが初めてだったから。写真展でサクラさんを紹介された時、私ちょっと挙動不審じゃなかった?
サクラ:いや、そんなことは思わなかった。
ヤマダ:ほんとに?『目、合わせられへん』と思って、結構きょろきょろしてて...。でもちょっと話したら『あ、話しやすい』って。
サクラ:ああ、でもね、『人見知りするんかな』とは思った。明るいけど。自分も人見知りはするから。
ヤマダ:うん、ちょっとする。りゅーさんとはね、最初はとある勉強会で会って、話したいと思ったけどあんまり話さなかったね。名刺交換だけして。その後、虐待の講演会で会って。
橋本:サクラのことは知ってたんだよね。もともとTwitterでやり取りしてた。今思うと。
ヤマダ:最初ちょっとこわかったけど、話したら『何かを発信したい』っていう3人だったんだよね。何かやりたいねっていう話になって。
長谷川:バランスはいいなあって。いい3人だなあって。
橋本:今となっては、インリバってすっかり馴染んだよね。
ヤマダ:最初は『インリバって言いづらいなあ』って思ってたんだけど(笑)
『internal』は長谷川さんの写真集『internal notebook』から来てる。それはやっぱり3人がそれで出会ったから入れたいねって入れたんですよ
橋本:写真集から始まってますからね。
ヤマダ:何か、私達の活動に期待したいことってあります?
長谷川:当事者の人達が発信するっていうことで、リアルな話を社会に投げかけることができる。自分だけが虐待を受けているんだとか、こんな思いをしているのは自分だけだって思いがちで...。実際にいま辛い思いをしている人達にとって当事者の人が発信することは『ひとりじゃない』って思える。
更にこうやって発信する方法もある、発信してもいいんだってことを実感できるんじゃないかなあって。『自分を表現しちゃいけない』と思いながら生きてきてる人達が、発信する人がいると知ると、表現していいんだって思えるから、すごく意味のある活動だと思う。
サクラ:言いたくない人に無理して口を開けてっことはもちろんないんですけど、『言いたいけど言えない雰囲気、風潮』みたいなのを肌で感じていて。言いたい人は言う、言いたくない人は内に秘めてていい。気持ちが変わって言いたくなったら言えばいいし。経験したことを言ってるから偉いでしょっていうつもりは全然なくて。どうしても全体的にみたら少数派が受け入れられないから、色んな人がいていい、自分で決められるっていうことがもっと広まったらいいなあって思います。
長谷川:そうですね。発信してもいいし、しなくてもいいし。言葉じゃない方法でやってもいいし、選択肢がいっぱいあるということを、この3人は表せるのかなって。カナンさんは漫画でやったりしてるし、隆生さんはどんどん出て行って、サクラさんはちょっと控えめ。それぞれがそれぞれのやり方で発信や表現しようとしてる。虐待当事者が3人を見ると『あ、この選択肢はいいかも?』って思うかもしれない。
写真集に出てくれた方で絵の個展をしようとしたり、作曲をしたり歌ったりしていて。自分のやりたいことを表現していいんだ、やっても否定されないし、それをいいと思って取り上げる人がいるんだと、もしかしたら写真集に出たことで思えたのかなって。一歩になったのかな。
サクラ:私は、写真集はすごい大きなきっかけになっていると思います。
ヤマダ:私は漫画を描いててふと『こんなの描いても意味ない』 『こんなの誰が読んでくれるんだろう』って思う事があるんですが、そういうのありません?作ってる途中で。
長谷川:あるある。なんでこんなつらい話を世の中に出す必要があるんだろうとか、これ意味あるのかなあ?はあった。ちゃんと理解しようとしてくれる人がどれぐらいいるんだろうとか。出てくれた人達の何かになるんだろうかとか。
ヤマダ:でも長い目で見たら色々プラスになって出会いもあったりとかね。
長谷川:出会いがあったのは一番嬉しかった。出てくれた人同士でつながったっていうのが、すごく一番嬉しい。
ヤマダ:サクラさんとりゅーさんの2人は長谷川さんに言われて救われた言葉ってあった?
サクラ:それね、考えてみたんやけど、多分いっぱいあるんよ、ほんとは。
長谷川:私、多分ほとんど喋ってない。ずっとただ聞いてるくらいで。
サクラ:それもあるかもしれない。 インタビューの時、自分の話をすごい聞いてもらって...。でもその聞いてくれる姿勢が安心できた。あそこで自分の話を受け止めてくれた、長谷川さんがいなかったら、多分自分は今こういう活動はできていないと思う。長谷川さんと出会ったことは大きい。
橋本:虐待っていう事柄を客観的に見て意見をしてくれたっていうか。例えば自分自身がやってることを長谷川さんが『それはすごく意味があることだよ』って言ってくれた。救われたって言えばそれなのかな。
より表現の自由っていうか、それがテレビという手段なのかもしれないし、新聞という手段なのかもしれないし、長谷川さんは写真という手段で。そういう色んな手段をもっと柔軟に考えた方がいいなっていうのはすごく思った。写真集だからこそ、写真集じゃなければなかった反応はあると思うし、だからそういうのは本当に勉強になりました。長谷川さんとの出会いは、救いというよりは勉強になった。ありがたいです。
長谷川:こちらこそ。カナンさんの時は、結構カナンさんが質問してくるから私も喋ったね。
ヤマダ:そうそう、私が対話をしたい人だから。
私は、『虐待があったから漫画家になれた』って思考があったんだけど、長谷川さんに『虐待がなくても漫画家になってたよ』って言われたのが、すごく救われた。そうだそうだ、虐待の前から漫画は好きだったよって、なんでそれが抜け落ちてたんだろうって思って。
虐待の話をすると反応が『つらいね』『かわいそう』っていう同情もあれば、『でも漫画家として頑張ってえらいね』っていう反応もあり色々なんだけど、長谷川さんは本当にただ受け止めるみたいな印象があって。だから傾聴の大事さみたいなのをすごく感じたんですよ。傷が癒されないのは、ひとりでずっと考えるだけだったから。人に聞いてもらったり、もちろん自分が人に話すことも大事なんだなって。そういうの全然なかったので。
長谷川:写真で表現するっていう場合、当事者の人がいないと成り立たないからほとんど喋ることはなく、ずーっと聞かしてもらってた。ちょっと相づちうったりとか、気になったことを聞くくらい。特に話しにくいことを話してもらってる訳だし、そこに自分の感情は入れないというか、とにかく教えてもらおうと。生まれてから今までの全部を教えてもらおうと思ってた。気づくと結構時間が経ってて5時間とか。話した後に反動はあったのかな?隆生さんはあんまりなさそう。
橋本:全くない。
ヤマダ:私は『母になるのがおそろしい』の構想から不安定になってたから長谷川さんの写真集がどうというのではなく。蓋をしていたものを開けちゃった。そこから虐待問題に取り組み始めたところはあって...。でもインリバで活動を始めて語ったりするようになって最近安定してきたなって。やっぱりくさいものに蓋をしてたら何かのきっかけで出ちゃいますね。それがたまたま自分が子供を産んで本を出して、長谷川さんと会って…、ぎゅっと詰まった1年だった。
サクラ:私も取材の後の反動はなかった。何かを話したり発信するブログを始めた頃のやさぐれから、虐待をしていた親に対する見方とか、客観視できるようにはなってきたのかな?段々変わってきてる、自分の変化はすごく感じる。長谷川さん云々じゃないけど、そこをきっかけに色々事が進んで行ってインリバとして活動を始めて。
先日、学生さんを対象に講義をやった時に、初めて母親からガムテープで口を塞がれたトラウマの話をしたんですよ。取材やブログではあったけど、ある程度の人数の前で話をしたのは初めてで『大丈夫かな?』って思いながらもまあ何とか話せて。感想を寄せてくれてた学生さんの中で、『やったことはひどいけど、おかあさんはサクラさんのことを殺そうと思ってやったわけではないんだなって思いました』っていう文章があって。
昔の自分だったら『そんなこと言ったって、殺されかけたものは殺されかけたんだよ』って、その感想を言ってきた人にもカチンと来てたんですよ。でも『頭が真っ白になったからといって虐待してしまう心理は私には分からないけど、でも悪気は本当になかったんだろうな』とは思えるようにはなってきた。だいぶ変わってきてるかな。かと言って許しはしませんけどっていう感じで。でも、『許さない』でも長谷川さんの取材を受けた頃と今とではちょっと違うかな。

長谷川:取材の頃は怒りがすごい、怒りのかたまりっていう感じだった。
サクラ:(怒りを)出してたと思う。だって人生終わったって思ってましたもん。日常生活すらあやふやでこれからどうやって生きていくんだろうって当時は思ってたので。
長谷川:怒り、カナンさんは少しあったかな。隆生さんは全然。すごい自分のことを客観視してて。
ヤマダ:そうそう、客観視し過ぎてて、第一印象が出来すぎな人っていう。でも最近印象変わってきた。
橋本:ああ、そう?良く変わったの?
ヤマダ:結構突っ走るよね。熱血だよね。
橋本:根は熱血だよ。
サクラ:2人に比べて、私は虐待に向き合い始めたのが遅かったから。これからもうちょっと時間が経てばまた自分も変わっていくんかなあって、もうちょっと冷静になれるんかなあとか、2人を見てたら思う時があります。
ヤマダ:でも私も何だかんだ遅かったよ。漫画ではガス抜きしてたけど、実際に取り組み始めたのは『母になるのが...』からだから。りゅーさんが1番早い。
長谷川:カナンさんは結構あれよね、浮き沈みというか不安定な時といい時と結構差が...。
ヤマダ:はい(笑)子供を生んで親の立場を知ったからこそ自分の親を許せなくなった気持ちが強くなったから、それも自分を振り返るきっかけになったんだけど。
橋本:おもしろいね、それね。真逆だもんね。
ヤマダ:りゅーさんは『親も大変だったんだな』って。私は『何であんなことできたんだ?』って逆に腹が立ってきたっていうね。
サクラ:自分の子供にそんなことできないって?
ヤマダ:いや、できなくはない。カッとすることはあるんだけど、だからってひどいことはしないようにする理性が働く。そこも三者三様だよね。インリバの。許す、許さないも。